逆浦島




お目汚し、失礼いたします。



昨日、15年ほど音沙汰の無かったお得意様から御注文をいただきました。
まだ私が雇われの身だった頃に、お世話になっていたお客様でございます。



御多分に洩れず、消費税増税前の駆け込み注文のようでございました。
しかしそのお得意様にはいろいろとお世話になっておりましたし
人当たりの良い下町の紳士といった感じのかたでしたので
二つ返事でお引き受けいたしました。



とある商店街の中にあるそのかたのお店までお伺いし
詳しいお話を聞いた上で御注文をいただいたのでございます。
お店も、そのお得意様も、商店街も
雰囲気は以前と全く変わっておらず
懐かしいというよりかは不思議な感じがいたしました。
冬の終わりを告げるような
柔らかな午後の陽射しのせいだったのかもしれません。



今で言うならコンビニに該当するようなお店でございます。
商店街の周囲には、いろんなコンビニがいくつも建っておりまして
そのお得意様のお店、商売的にはさぞかし青息吐息ではないかと
余計な心配をしていたのですが
細々とではあるものの、しっかりと営業しておられました。
私が訪れたときも、お年を召した常連客らしき御婦人が
洗濯ばさみとキッチンタオルを買いに来ておられました。



帰り際、その商店街の出入り口から外に出る直前
うしろを振り返ってみました。
もしこのまま外に出ずにこの商店街の中にとどまっていたら
15年ほど前の世界に戻れそうな気がいたしました。



浦島太郎の逆バージョンでございます。
自分は年を取ったまま過去の世界に戻ってしまう。
そして玉手箱を開けると途端に若返り
さびしくなった頭髪が当時のような余裕を取り戻し
股間の玉手箱もフル稼働の状態に回復する……



もちろんそんなことはありえません。
優しい午後の薄日に、なんともいえない悲しさを覚え
私は商店街の外に出て、現実の世界に戻りました。



……いや、現実の世界ではございません。
むしろ、浦島太郎オリジナルバージョンの
ラストシーンの世界と申すべきかもしれません.....






黒いアップデート




お目汚し、失礼いたします。



不気味な事件でございます。
先月19日、群馬県のディスカウントストアの駐車場において
女性が軽自動車の中から遺体となって発見され
その頭は拳銃で撃たれていたそうでございます。
女性はストーカーとのトラブルを抱えていて
容疑者と思しきストーカーの男は後日、死体となって発見されました。



この男が仮に拳銃で女性を撃ったとして
どうやって拳銃を手に入れたのでしょうか。
まず考えられるのは暴力団関係のルートですが
この男と闇社会とのつながりを示すような話は
男の周囲からは出ていないそうでございます。



ネットで見た新聞記事によれば、「 その筋 」の人間に対して
堅気の人間が拳銃を売ってくれと注文するケースがあるとのこと。
あるいは、いわゆる闇サイトを使って拳銃を調達したのかもしれませんし
おまけに最近では3Dプリンタなるものが実用化され
技術的には設備と材料と知識さえあれば誰でも銃が作れるようでございます。



恐ろしい世の中になりました。時代はもはや「 気違いに刃物 」ではなく
「 ストーカーにピストル 」なのかもしれません.....






名札流行り




お目汚し、失礼いたします。



先日、ちょっと体調を崩しまして内科のかかりつけ医に診てもらいました。
症状もたいしたことは無く、一週間分の薬をもらうだけで済んだのですが
白衣を着た医師の胸にアクリル製の名札が付いているのを見て
なにやら違和感を覚えました。



以前はそんなことは無かったのでございます。
その人は院長先生であり、その医院には医師はその人しかおらず
常連の患者はみな、その医師の顔を見知っております。
初診や常連以外の患者に配慮してのことなのかもしれませんが
なぜ最近になってという気がいたします。



先日、役所か学校の不祥事のニュースで
お偉いさんが謝罪会見をおこなっている様子がテレビで流れておりました。
頭を下げている男性三人の胸には
やはりアクリル製かプラスチック製の名札がぶら下がっております。
また、私が日常生活や仕事先で公共機関や企業を訪れると
そこで会う職員や社員は全員が全員、名札を胸に着けております。



名札流行りでございます。
セキュリティ対策のためなのでしょうが、逆にそれが盲点となって
セキュリティが甘くなる心配は無いのでしょうか。
百均またはホームセンターでそれらしきものを買い
いかにもな感じの所属部署名と氏名、ID番号と顔写真
バーコードやQRコードなどを印刷した紙片を入れて胸から下げておけば
部外者でもス~ッと通してくれそうな気がいたします。



まぁそういう悪質ないたずらはともかく
これだけあちらこちらで名札を身に着けている人々を見かけると
自分で名札を作ってどこかの施設や社屋を堂々と闊歩してみたいという
誘惑に駆られるものでございます。 
 厨房  変質者 という肩書きと、ID番号が 0721 もしくは 4545
そして自分の局部の写真  をプリントした紙片の入っている
透明なプラスチック製の名札を胸から下げて
最寄の市役所や大手企業の玄関をくぐってみたいような気もいたしますが
まずまちがいなくセキュリティ要員によって別室へ案内されるでしょうし
ヘタをすれば制服警官も飛んでくることでございましょう.....






空白の卒業式




お目汚し、失礼いたします。



今日は午前中から昼ごろにかけて
卒業証書らしきものを手にした中高生の歩く姿が
街なかで散見されました。
最近は卒業証書は筒状の入れ物ばかりではなく
大きな手帳のようなものに挟んで入れるものもあるようでございます。



卒業式シーズンでございます。
卒業式と聞いて特に思い出に残っていることは
私の場合、ほとんどございません。
強いて申し上げるなら、大学の卒業式のとき
朝から腹具合が悪かったため、式の最中に
早くトイレに行きたくてしょうがなかったことぐらいでしょうか。



次に印象に残っている卒業式は、高校生のときでございます。
来賓として招かれたPTA役員か地元の有力者のような方が
なにやら支離滅裂なスピーチをやっておりました。
聞くところによれば、酒に酔っていたのではないかとのこと。
そういえば、やけに顔が赤ぅございました。



最も記憶に残っていないのは、中学校卒業のときでございます。
私どもが通っていた中学校は非常にお行儀の良い学校でございました。
それゆえ、先生がたも式が終わるといち早く、生徒たちよりも先に
学校から帰ってしまうのでございます。
先生にお礼がしたいと申す生徒がいるにもかかわらず、でございます。



まぁ多少、大げさな表現になってしまったようですが
ともあれ卒業式に関しては思い出らしい思い出が一つもございませんし
ましてや目がウルウルッときたことなど一度もございません。
もしかすると私は感性の鈍い性格破綻者なのかもしれません。
あるいは、よほど無意味な学校生活を送っていたために
卒業するべきものが何も無かったのでございましょう.....






未熟女




お目汚し、失礼いたします。



巷では昨日も今日も、そしておそらく明日も
常識では考えられないような犯罪、信じられないような事故
陰惨極まりない事件などが起きているのでございますが
その中で私がもっとも見聞きしたくないニュースは
幼い子供が命を亡くすような事件・事故のニュースでございます。



今日もその手のニュースが報道されておりました。
埼玉県のマンションで、ベビーシッターの男性に預けられていた2歳の子供が
遺体となって発見されたというニュースでございます。
警察はこの男性を死体遺棄の疑いで逮捕しておりますが
当然、男性がこの子の死亡原因に関わっているかどうかも
調べるつもりなのでございましょう。



亡くなった子供の母親は、インターネット上に開設されている
ベビーシッターの紹介サイトを通じて
逮捕された男に子供を預けたそうでございます。
連絡手段もおぼつかない見ず知らずの人間に
ネット上でのやり取りだけで、なぜわが子を預けたのかと
不思議な思いがいたしますが
ベビーシッターの料金が通常よりかなり安かったそうでございまして
おそらく経済的な理由をはじめとして
いくつかの言い分や事情があるのでございましょう。
母親が利用していたベビーシッターの紹介サイトは利用者も多く
けっこう有名なサイトだったそうでございます。



しかし結果的に幼い命が亡くなってしまったのでございます。
ここに私は、亡くなった子供の母親に対して
つい最近勃発した大騒動の渦中にいる某リケジョと
同じものを感じざるを得ません。
それは「 未熟さ 」でございます。
コピペという便利な方法があるからと飛びついたリケジョのように
安価さや利便性に目がくらみ
幼い子供を見知らぬ人間にゆだねるときのリスクを
十分に理解していなかったのではございませんかな。



働く女性を取り巻く環境が云々、子育てしにくい社会がかんぬんと
そういう御意見もございましょう。
だが自分で自分の身を守ることもできず
ほんの二つで死んでいった小さな命にとっては
そんな言い分など、知ったことではないのでございます.....






気もそぞろ




お目汚し、失礼いたします。



4月に執行される消費税増税前の一時的な好況によって
さまざまな業界が多忙を極めておりますが
私のような零細企業も、わずかながらそのおこぼれに与っております。
ただ、いくぶんキャパシティ・オーバー気味でございまして
嬉しい悲鳴よりかはむしろ苦しい呻き声を上げている次第でございます。



4月に入るまでのこの先10日間前後が
もっともキツイ時期になりそうだったのでございますが
そんななか、御注文をいただいていたとあるお得意様から
納期を4月以降にずらしてくれという御連絡がございました。
詳細は申せませんが、別の業者の商品の納期が遅れているため
その商品の納品と連動している私の方の商品の納期を
先送りにせざるを得ないそうでございます。



当初の納期は、こちらとしてはギリギリ間に合うかどうか
という期限でございましたので
願ったりかなったり、渡りに船、ホッといたしました。
消費税の値上がり分は目をつぶってくれないかということなのですが
この際、その程度の譲歩はやむをえないと判断し、受け入れました。



そのお得意様から納期の先送りの御連絡をいただくまでは
正直なところ間に合うかどうか不安で
夜もおちおち眠れないほど気もそぞろでございましたし
自家発電を楽しむための時間的・精神的余裕が
ここ一ヶ月の間は、全くございませんでした。
しかしこれで枕を高くして眠れますし、マラを硬くして楽しめまする。



仕事というものは、一年を通じてコンスタントにもらえるのがベストでございます。
私の取引先の工場は、あまりに忙しすぎて
完全にキャパシティ・オーバーもしくはダブル・ブッキングの状態となるため
常連客や大切な得意先の注文を数件、泣く泣く断ったとのこと。
他人事ながら非常に残念な思いがいたしました。
4月以降、消費税の増税がおこなわれて
景気がガタ落ちになるのではないかと噂されておりますが
もしそうなれば憤懣やるかたないところでございましょう。



景気が良いに越したことはございませんが
何かちょっと違うような気がいたします.....






忠義立て




お目汚し、失礼いたします。



先日、「 怪獣大戦争 」という往年の東宝特撮映画を
知人宅のケーブルテレビで拝見いたしました。
ゴジラやラドン、キングギドラといった
われわれの世代にとっては馴染み深い怪獣と
地球侵略をたくらむX星人という宇宙人が登場する
怪獣映画の王道作品でございます。



劇中、地球に潜入していたX星人の秘密基地が
地球人の大反撃を受けて全滅の危機に陥り
X星人が慌てふためくシーンがございました。
その慌てふためいていたX星人でございますが
秘密基地の指揮官に向かって
思いっきり「 社長!」と叫んでおります。



その指揮官、地球での表向きの顔は
とある会社の社長でございました。
それゆえ部下は「 社長!」と呼びかけたのだと
推測されるわけなのでございますが
パニック状態になっているにもかかわらず
任務に対して忠実な態度を貫き通して
指揮官のことを「 社長!」と呼んだX星人のけなげさには
全米が泣いたことでございましょう。



所属している組織・共同体が
破綻あるいは終末を迎えているにもかかわらず
任務や仕事に忠実な人間は、けなげで美しゅうございます。
しかしながら、ある意味それは
「 悪あがき 」のようにも見えるわけでございまして
傍目からすると滑稽もしくは奇妙に映る場合もございましょう。



忠義立ても、「 ほどほど 」がよろしゅうございます。
度が過ぎればそれは、突如として火の手に包まれた夜の街の風俗店で
事態に気づいたプレイ中の客が
「 火事でございます、女王さま! 今すぐ逃げましょう!」と
叫んでいるようなものになってしまうのでございます.....






小さな班長




お目汚し、失礼いたします。



今では何か事件が起きたときしかおこなわれないようですが
私どもが小学生の頃は朝、集団登校をするのが
当たり前の慣わしでございました。
近所の子供たちが公園や誰かの家の前に集まり
数人で班を作って学校へ向かうのでございます。
班長役の子供が、鳥をモチーフにしたマークが入っている
交通安全協会か何かの黄色い旗を持ち
下級生や同級生を先導して歩いておりました。



班長は高学年が務めることになっていて
私が小学6年生のとき、自分にその役目が回ってきたのでございますが
低学年児童を引き連れて行進するというのが恥ずかしゅうございまして
特に旗を持って歩くというのが嫌でございました。
それゆえ、他の班長が旗をピンと立て、ヒラリと広げて持っていたのに対して
私はというと、まるで萎れたイチモツのように
クルクルと丸めた旗を下に向けて持ち歩いていたのでございます。
今思えば、随分となさけない班長だったと存じます。



私の知る限りでは、最近はそういった登校は
おこなわれていないようでございます。
少子化やプライバシー重視の影響でございましょうか。
こういった世の流れは、班長を務めることを嫌がっていた
あの頃の私なら歓呼の声で受け入れていたでしょうが
もはやそれから40年以上も経ってしまい
私は、嫌がることも受け入れることもできない中年男になってしまいました。



身勝手なようですが、もっと胸を張り
班長として堂々と先頭を歩いていればよかった。
そんな思いにとらわれる今日この頃でございます.....