玄妙なる花




お目汚し、失礼いたします。



幼いころや若いころには
桜の花に対して関心など無かった私ですが
年を経るにしたがって親しみを感じるようになってまいりました。
なかでもソメイヨシノはその淡いピンクの彩りが
中年男と化した私の視覚にしんなりと入り込んでまいります。



俗に言う「 目に優しい 」というやつでございましょうか。
老いてくると、何かと刺激の少ないものが欲しくなるものでございまして
ソメイヨシノの花の色のように薄味の料理や静かな音楽
ほんのりとした香りや柔らかな感触といった
興奮よりも癒しをもたらすものに心惹かれてしまいます。



天気の良かった先日、仕事中に車で街なかを走っておりましたら
天界から降りて来た雲海のごときソメイヨシノの花によって
端から端まで一面にわたって埋め尽くされている公園を見かけました。
淡いピンク色の雲海の下、園内のあちらこちらでレジャーシートを敷き
赤ん坊や幼い子供と戯れている母親たちの姿を見ておりますと
ホッとするような思いとともに、逆に身の引き締まるような
不思議な緊張感さえ湧き出てまいります。



一昨日と昨日はあいにくの雨模様で、花もいくらかは散ってしまったようですが
しかし桜というもの、雨の日も晴れた日も曇天の日も深夜も
その折々の風情があるものでございますし
散れば散ったで、風雅な哀感に浸ることもできるのでございます。
しかし、やはりなんといってもその本領は満開のとき
まるで大地にピンク色の靄がかかったような光景の美しさでございましょう。



この時期、ソメイヨシノが咲き競う並木道や上述のような公園を見かけると
仕事など放り出して花見に出かけたくなってまいります。
まぁさすがにそれはできませんゆえ、そんなときは運転していた車を止め
にぎやかに咲き開いた夥しい数の花をじっくりと眺めて物思いにふけり
車から降りては暖かい春の風に顔をほころばせ
おもむろに目の前のソメイヨシノを見上げると
その太い幹を股にはさんで股間をこすりつけながら木をよじのぼり
枝を掻き分けピンク色の靄の合間からヒョコリと首を突き出して
「 アッ━━━━━!」と思いっきり叫んでみたいものでございます。



何やらピンク色の靄ではなく
ピンク色の象を見ているようなことを書いてしまいましたが
ともあれ桜というものは人間の心の琴線に触れる
玄妙な花だという気がいたします.....






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