ダンスはうまく踊れない 《 中編 》




お目汚し、失礼いたします。



前回の記事の続きでございますが
私が社会人一年生のとき
新入社員の歓迎会が催された夜のことでございます。



歓迎会と申しましたが、実質的には新入社員研修が終わった後の
慰労会のようなものでございました。
私が入社したのは一応、業界では名の通った会社でしたが
大企業というわけではなく
しかしそれでもその年の新入社員は総勢10名
そのうち歓迎会に参加したのは大卒の新入社員7名でございました。
高卒の新入社員3名は未成年だったため
お酒の席には参加できなかったのでございます。



研修が終わったということで
羽根が生えていたような気分になっていた私たち7人は
歓迎会がお開きになった後、二次会をやることになりまして
夜の繁華街へ繰り出しました。
お互いにまだ気心の知れていない者同士だったのでございますが
リーダー格の男性の提案で、ディスコへ行くことになった次第。
歓迎会がおこなわれた料理店からさほど遠くないところに
彼の行きつけのディスコがあったのでございます。



彼は押し出しが良く、なんとなくカリスマ性もあり
この時点ですでに女性の新入社員二人とすっかり打ち解け
冗談を交わして笑い転げるほどになっており
男性の新入社員たちもお互いに意気投合し
何やら軽口を叩きながら話が盛り上がっております。
そんな中、私だけが和気藹々とした空気になじめず
浮いておりました。



かといって彼らの「 輪 」の中から抜けて
一人だけ帰るわけにもいかず、ストレスを感じながらも私は
ディスコまでノコノコとついていったのでございます。
そしてディスコ初体験だった私は
店内の様子や雰囲気に圧倒されてしまいました。



耳を聾するばかりの大音響で流れる音楽
まるで深海の底にいるような幻想的な照明の中で踊る男女の姿
そして何より、私以外の新入社員たちが
いかにも場慣れしているといった動きで
音楽に合わせて踊っているのを見ていると
見知らぬ外国か異次元空間に放り込まれたようで
私はなんとも言えない孤独感に包まれてしまいました。



誰かにブン殴られたような虚脱感と
足元が宙に浮いているような落ち着かない気分を味わいながら
ダンスに興じる男女の姿をボックス席に座ったまま眺めておりますと
やがてリーダー格の男性新入社員がダンスの合間に
「 ●●くん、君も踊れよ 」と私に声をかけてまいりました。



彼は積極的かつ行動的な人間のようでしたが
嫌味なところや捻じ曲がっているような部分は決して見受けられず
どちらかといえば「 好青年 」の部類に属しておりました。
それゆえ、彼の「 踊れよ 」という呼びかけは
私をからかっているわけでもなく
また強制しているわけでもないように聞こえまして
ちょっと寒気がする表現ではございますが
実に「 さわやかな 」感じがしたのでございます。



ちょっぴり嬉しい気分にはなりましたが
それでもダンスフロアへ出て踊る勇気は出ず
私は半ば自棄気味に水割りやカクテルを呷っておりました。
すると他の新入社員が男性も女性も
ダンスの合間に入れ替わり立ち代り私のところへやって来て
まるで励ますかのように

「 なぁなぁ、踊ろうや 」
「 ●●くん、踊ってみたら?」

と気さくに声をかけてくるのでございます。



そうやって声をかけられているうちに
やがて勘違いをした…いや、元気づけられた私は
「 よーし 」とばかりに立ち上がりました。
ディスコに来てからずっと飲み続けていたため
酔いが回っていたのかもしれません。
そして無謀にも私はダンスフロアへと向かって
足を踏み出したのでございます.....



長文、申し訳ございません。
「 ダンスはうまく踊れない 」、次回でようやく最終回でございます。






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