ダンスはうまく踊れない 《 後編 》




お目汚し、失礼いたします。



自分が他の新入社員たちから浮いているような気がしながらも
それを認めたくない、あるいは認めるのが怖いために
二次会に参加してしまった私。しかもよりによって二次会の場は
私にとっては未体験ゾーンのディスコでございました。



当然、踊り方も何も知らない私、何をどうすればよいかもわからず
ボックス席で酒を呷ってお茶を濁すばかりでございます。
しかしそんな私のもとへ入れ替わり立ち代りやってきた
同期入社の新入社員に煽られ…いや、励まされた私は
ボックス席から立ち上がり、ダンスフロアに踏み込みました。



そのときになって初めて気がついたのでございますが
踊っている人間の大半は、特に何か垢抜けたダンスをしているわけではなく
音楽に合わせてただ単に軽く体を左右に振っているだけなのでございます。
手足をフル稼働させて玄人じみたポーズや動きをとっているのは
ほんの一握りの人間で、あとの人間は両手をダラリと左右に降ろし
けだるげに腰を動かしながら足踏みをしているだけなのでございました。



( なんだ、楽勝じゃないか♪ )
にわかに活気付いた私は、ダンスフロアにいる人の群れの中に紛れ込むと
同じように体を軽く揺すりながら足踏みをし始めました。
そして30秒も経たないうちに
ダンスフロアにいる人の群れと一体感が芽生えたような感覚を覚えて
気分が高揚し、足踏みをしているだけでは物足りなくなってまいりました。



やがてフロアの中央付近で派手に踊っている
二、三組のアベックの姿が私の目に入り
チャレンジ精神というよりかは悪戯心が私をそそのかしたのでございます。
彼らの真似をしてみようと思いついた私は
遠慮がちながらも手を宙に振り上げ
腰を大きく左右に動かしてみたのですが、即、やめました。



ダンスフロアの向こうの壁が鏡張りになっておりまして
真似をして踊る自分の姿が見えたのでございます。
鏡には真似をした相手のものとはかけ離れたぎこちない動きで
無様に踊る自分の姿が映っており
それはまさに蛸踊り  とも呼ぶべきものでございました。
私は慌てて自分のダンスを元の「 足踏みスタイル 」に戻したのでございます。



慣れないことはやらないほうがいい。
まだ現時点では、自分はディスコで踊ることに関して
破瓜を迎えたばかりの処女のようなものではないかと思い直した私
「 足踏みスタイル 」を続けることにしたのでございます。
が、しばらくするとまたしても物足りない気分になってまいりまして
音楽がアップテンポの曲に変わったのをきっかけに
性懲りもなくちょっとだけ「 弾けて 」みることにいたしました。



そして少ししゃがみ込むようにして縮こまり
次の瞬間には思いきって手足を大きく広げ
また両手を曲げて縮こまり
次の瞬間には再び手足をいっぱいに広げ
という動きを繰り返したのでございます。
「 萎縮 」と「 開放 」という
ダンスをやってみる前とそれ以後の自分の精神状態を
それぞれ象徴しているかのような動きでございました。
まぁ、ざっとこんな感じでございます。

ダンス4

最初はひらめきや勢いでやったアクションだったのですが
すぐさま自分の頭の中で一つの振り付けとして固まってしまいました。
鏡張りの壁に映った自分のダンス姿も
少なくとも自分が見た印象ではそれほど違和感がなかったため
以後、その曲が流れている間はもちろん
アップテンポの曲が流れるたびに
この「 振り付け 」で踊っていたのでございます。

ダンス5

もっとも、私の脳内で満足のいくダンスだったとしても
他人がどんなふうに感じていたかは別問題でございます。
しかしはっきりとたしなめたり
あるいはあからさまに冷やかしたりという者がいないため
私は自分のダンスが少なくとも「 十人並み 」のものだろうと
信じ込んでおりました。
ちょっと眉をしかめたり、なんとなく ( ゚д゚)ポカーン としたり
という周囲の目が少し気がかりでしたが
かまわずに私は踊り続けたのでございます。

ダンス5

やがて、あまり遅くなって終電がなくなってもいけないということで
例のリーダー格の彼の呼びかけで二次会は終了となりました。
ディスコをあとにした私たち7人の新入社員は最寄の地下鉄の駅へと向かい
おのおのが自分の家路へと向かう電車に乗って去っていきました。



その頃には酒の酔いもすっかり醒めていた私でしたが
二次会が始まる頃と比べて気分は上々でございました。
ただ、ディスコから地下鉄の駅へ向かう途中
他の新入社員たちの口数が少なく
また彼らが私と目を合わせないようにして足早に歩いているのが
気にはなりましたが、そんなことなど意に介さないほど
私は気分上々だったのでございます。



機会があれば、また同期入社の社員たちといっしょに
ディスコに行ってみたかったのでございますが
それ以降、同期の新入社員が集まって酒を飲む機会はあっても
ディスコへ行く機会は二度とございませんでした。
いや、あのときの7人が全員集まって酒を飲みにいく機会さえ
無かったような気がいたします。



他人のイタイタしいダンスやパフォーマンスを見ると
ときおり私は、このときの自分のダンスを思い出します。
若気の至りであのような気持ち悪いダンスを披露してしまいましたが
今となっては、ほろ苦い思い出…いや、苦々しい黒歴史でございます.....






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