電車中年男




お目汚し、失礼いたします。



私のように小汚くてくたびれて頭頂部の毛が薄くなった
加齢臭芬々たるオッサンでも
天は時として珠玉の恵みをお与えになることがございます。
もう二年前のことになりますが
そんな出来事を私、体験いたしました。



二年前の夏、7月のとある日曜日
私は炎天下の中、JR大阪駅を見物に行きました。
まだグランフロント大阪が開業する前のことでございますが
JR大阪駅は大規模な改装をおこない
三越伊勢丹や大丸といった百貨店を擁する一大商業施設として
その年の5月にリニューアルオープンしていたのでございます。



オープン早々だと人の混雑が激しいかと思い
少し時期をずらして見物に行ったのでございます。
駅の施設自体にはあまり変化は無いようでしたが
駅の施設の上には幅広の巨大な滑り台を思わせる大屋根が広がり
そのファンタジックな屋根と駅の施設との中間には
空中都市のような広場が構築されておりました。



そのテーマパークのような空間を歩き回り
伊勢丹や大丸にも入ってみた後
私は自宅に帰るべく私鉄の電車に乗りました。
自宅に帰るにはJRよりも私鉄の方が
交通の便が良かったのでございます。



Tシャツにチノパンという出で立ちでおったのでございますが
折からの暑さと、JR大阪駅を見物するために
あちらこちらを歩き回ったせいで大汗をかいており
私の上半身は濡れ雑巾をかぶっているような状態でした。
電車の車内は比較的空いており
私は長椅子に背中を預けて座っておりました。



やがて私が降りる駅から3つ手前の駅で
若いOLか女子大生風の女性が電車に乗り込み
私の隣に腰掛けました。
一瞬見ただけでございますが
顔は女優の沢口靖子に似ていたように記憶しております。



その女性が横に腰掛けてから2、3分後
濡れ雑巾のようなTシャツで覆われた私の右肩に
何かが触れるのを感じました。
どうやらさっき腰掛けた沢口靖子似の女性の髪のようでございます。
髪はやがて重さを増し
私は女性の頭が右肩にもたれてくるのを感じました。



疲れているのか眠いのか、女性は私の右肩に頭をもたれさせ
ウトウトしているようでございます。
右肩を覆っているTシャツが汗でジットリとしていることなど
全くお構いなしでございます。
何やら申し訳ないような気持ちになり
私はさりげなく右肩を動かして女性の頭を元の位置に戻しましたが
しばらくすると、またもたれてまいります。
もう一度やってみましたが、結果は同じ。
諦めた私は、そのままにしておくことにいたしました。



もっとも、「 これ幸い ♪ 」という気分になっていたのは否めません。
若くて美しい女性が、ウトウトしながら頭を私の肩に
もたれさせてくるのでございます。
周囲の目は少し気になりますが
男性としては嬉しくないはずがございませんし、多少興奮もいたしましょう。
私とて男性の端くれ、例外ではございません。
女性は頭をもたれさせ、私は亀頭をもたげさせ
そのままの状態がしばらくの間、続きました。



やがて電車は私が降りる駅に到着し、名残惜しゅうございましたが
女性の頭をそっと元の位置に戻すと、私は電車を降りました。
電車が走り去っていくとき電車の窓を見ましたが
女性は依然として眠っていたようでございます。



何やらちょっとしたキセキのような体験でございました。
汗でジュクジュクになっていたTシャツをまとっている私の右肩に
若くて美しい女性が頭をもたれさせてくるなど
通常では絶対にありえないことでございます。
もしかすると、このTシャツは、そんなキセキを起こす
パワーアイテムなのでございましょうか。



そう思った私は、あの女性の頭が触れていたということも相俟って
帰宅後もそのTシャツを洗わずに置いておくことにいたしました。
そしてそれ以後、夏の暑い日にそのTシャツを身に着け
あの女性と巡り合うことを期待して何回か電車に乗りましたが
ことごとく空振りに終わった次第でございます。



そもそも、そんな巡り合わせなどあろうはずはなく
さすがに馬鹿げているという気はいたしましたが
「 いや、もしかしたら…… 」という思いもぬぐいきれません。
そのためあのTシャツは今も保管してあります。
もちろん、「 洗わずに 」でございます.....






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