それは厨房




お目汚し、失礼いたします。



迂闊でございました。
先日、電話でのお客様との交渉の際
値引きの交換条件として提示するはずだった事項があったのでございますが
うっかりそれに言及するのを忘れてしまい
交換条件なしで相手の値引きの要求に応じてしまったのでございます。
あとから電話をかけて再交渉を試みたのでございますが
お客様はすでに出かけてしまったのか、居留守を使っているのか
留守電のメッセージが流れるばかりでございます。



ビジネスは戦いでございます。
すでに勝負がついたと悟った私は受話器を置き
しばらく電話機のプッシュボタンをぼんやりと見つめておりました。
こんなとき、もう少し若い頃だったならば
自分の馬鹿さ加減に腹を立てたり
お客様に対して呪いの言葉を吐いていたりしたことでございましょう。
しかし今はただもう精神的な疲れが先行し
自己嫌悪に陥るばかりでございまして、怒りの欠片も湧いてまいりません。



老いを感じました。
なぜあんなミスをしてしまったのか、考えれば考えるほどイライラは募り
そのくせ目のくらむような怒りは全く感じません。
そしてそのアンバランスな精神状態は
私を現実離れした奇矯な行為へと誘います。



その誘惑のとおり
お客様の留守電にHな声でも吹き込んでやろうかと思いましたが
そんなことをすれば、ビジネスは台無しでございますし
何より、50過ぎのむさくるしいオッサンの喘ぎ声を聞かせても
お客様が喜ぶはずがございません。
しかし、そんな茶目っ気のある自分自身の事を思うと
私もまだまだ若いのではないか。青年の志を抱いているとは言いがたいが
少年の心を持った大人だと言えなくもないだろう……そんな気がいたしました。



もちろん、それは私の思い込みだというのは重々承知しております。
若者でもなく青年でもなく少年でもない。
そんな私にふさわしい言葉、それは厨房でございます.....







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