逆浦島




お目汚し、失礼いたします。



昨日、15年ほど音沙汰の無かったお得意様から御注文をいただきました。
まだ私が雇われの身だった頃に、お世話になっていたお客様でございます。



御多分に洩れず、消費税増税前の駆け込み注文のようでございました。
しかしそのお得意様にはいろいろとお世話になっておりましたし
人当たりの良い下町の紳士といった感じのかたでしたので
二つ返事でお引き受けいたしました。



とある商店街の中にあるそのかたのお店までお伺いし
詳しいお話を聞いた上で御注文をいただいたのでございます。
お店も、そのお得意様も、商店街も
雰囲気は以前と全く変わっておらず
懐かしいというよりかは不思議な感じがいたしました。
冬の終わりを告げるような
柔らかな午後の陽射しのせいだったのかもしれません。



今で言うならコンビニに該当するようなお店でございます。
商店街の周囲には、いろんなコンビニがいくつも建っておりまして
そのお得意様のお店、商売的にはさぞかし青息吐息ではないかと
余計な心配をしていたのですが
細々とではあるものの、しっかりと営業しておられました。
私が訪れたときも、お年を召した常連客らしき御婦人が
洗濯ばさみとキッチンタオルを買いに来ておられました。



帰り際、その商店街の出入り口から外に出る直前
うしろを振り返ってみました。
もしこのまま外に出ずにこの商店街の中にとどまっていたら
15年ほど前の世界に戻れそうな気がいたしました。



浦島太郎の逆バージョンでございます。
自分は年を取ったまま過去の世界に戻ってしまう。
そして玉手箱を開けると途端に若返り
さびしくなった頭髪が当時のような余裕を取り戻し
股間の玉手箱もフル稼働の状態に回復する……



もちろんそんなことはありえません。
優しい午後の薄日に、なんともいえない悲しさを覚え
私は商店街の外に出て、現実の世界に戻りました。



……いや、現実の世界ではございません。
むしろ、浦島太郎オリジナルバージョンの
ラストシーンの世界と申すべきかもしれません.....






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