酔眠




お目汚し、失礼いたします。



早いものでもう一週間も経たぬうちに12月、師走でございます。
師走と言えば忘年会、忘年会と言えば酔っ払いでございます。
今年も12月になれば街のそこかしこで、ハメをはずして騒いだり、狼藉を働いたり
奇妙な行動をとったりする酔客を見かけることになりましょう。



ちょうど去年の今ごろ、一人の酔っ払いを見かけました。
所用で私、夜の八時過ぎに外を出歩いておったのでございますが
私鉄の駅の近所の裏通りで、ある程度人通りのある場所でございます。
違法駐車をした車が何台か並んでおり、その車のうちの一台のボンネットに
初老の男性が酒臭いニオイを漂わせながら仰向けでへばりついておりました。



「 真夜中のカーボーイ 」という映画で全裸のジョン・ボイドが数人がかりで
自動車のボンネットに押さえ付けられているシーンがございました。
あれはうつぶせ状態だったので、背中とケツがこちらを向いておりましたが
件の初老の男性は逆に仰向けでございました。ただし全裸ではございません。
黒っぽいスーツの上に灰色のコートを羽織ったきちんとした身なりなのでございますが
それだからこそ余計にその姿は違和感がございました。



よく見ると男性は眠っております。
起こそうかと思いましたが、その眉間に刻まれている深い縦皺を目にすると
思わず躊躇してしまいました。
その場を通り過ぎ、少し離れた場所で立ち止まってしばらく様子を見ていたら
まもなく男性は目を覚ましました。そして大儀そうに起き上がると
駅の方へ向かって立ち去ったのでございます。



車のボンネットの上に乗っかるのではなく、仰向けにへばりついて眠るというのは
かなり不自然で窮屈で疲れるのではないかと存じます。
ほとんど海老反りに近いような、ヨガの行者のごときポーズだったのですが
そういった状態でも眠れてしまうほど、酔っているか疲れているか
あるいはその両方の状態だったのでございましょう。



なぜか同病相哀れむといった心持になってしまいました。
見ず知らずの他人ではございましたが、私はその男性のほうに向かって
低くつぶやいておりました。「 お疲れさま 」と。





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