怒れる男




お目汚し、失礼いたします。



世の中いろいろな人間がいるものでございますが
私が特に苦手だと感じるのは
些細なことで極端に腹を立てる人間でございます。
何でこれしきのことで腹を立てるのだろう。
いったい何が気に食わないんだろうか。
これまでの人生の中でそういった状況に直面したり
そんな場面を目撃したりということが多々ございました。



私の一番古い記憶で申しますれば、高校生だったときのことでございまして
教室で或るクラスメートの男子が友人たちと駄弁っていたところへ私が通りかかり
たまたま私の体が軽くその男子の体に触れたのでございます。
タマタマに触れたわけでもタマタマが触れたわけでもなく
軽く体が接触しただけのことだったのでございますが
途端に彼は、痛いじゃないか、何しやがるとばかりに私を激しく罵ったのでございます。
私が謝りましたゆえそれ以上のトラブルにはならなかったのでございますが
彼は普段さような態度を取るような男には見えなかったため
私、非常にショックでございました。



いわゆる虫の居所というのが悪かったのでございましょうか。
彼とは同じクラスメートながら口を利いたこともなく
このときの彼の心理状態を推測することなど不可能なのでございますが
私がどうにも解せないのは、悪気も他意もなく体が軽く触れた程度のことで
初対面に近い人間に対して、あんなにも高圧的なスタンスをとることができるのは
何故だろうかということでございます。
私がさぞかしヘタレに見えたのでございましょうか。
何を言おうがどんな目に遭わせようが
アグレッシブなリアクションが返ってこないという確信があったから
あのような強気の態度に出たのでございましょうか。



私にはとてもそんな真似はできません。
それこそヘタレのヘタレたる所以なのでございましょうが
少なくとも、不用意な一言・無造作な振る舞いがどんな事態を引き起こすか
予測もつかない今の世の中では、むしろ最低限必要な心構えではないかと存じます。
もし同窓会の類のような機会があれば、なぜあんなにブチキレたのか
あのクラスメートに訊いてみたいのですが、ひょっとすると今頃彼は、くたばっ…
いや、亡くなっているやもしれませんゆえ、無理な話でございましょう。





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