空想への扉




お目汚し、失礼いたします。



「 読書の秋 」などと申しまして
読書をするなら秋と相場は決まっているようでございますが
夏休みの宿題として読書感想文を提出しなければならない学校もありましょう。
また、エアコンの効いた涼しい部屋でなら
じっくりと読書を楽しむことができるはずでございます。



高校生だったときの夏休みに、早川書房が発行している
「 SFマガジン 」というSF小説の専門雑誌を読んだことがございます。
早川書房は国内外のSF小説を扱っている大手出版社ですが
その「 SFマガジン 」の中に早川書房の自社広告の頁があり
そこで書かれていた宣伝文に「 冷房の効いた部屋でどうぞ 」
というようなフレーズが記されておりました。



私見で恐縮でございますが
SF小説は、思いっきり空想の世界に浸る文学でございます。
ジトジトと汗に濡れた体をタオルで拭いながらとか
蚊に刺されたところを掻き過ぎて血を出しながらとか
そういう生活感むき出しで読むと興ざめでしょうし
不景気や生活苦でエアコンも使えないという
社会問題と背中合わせのような状況下では想像力も半減してしまいます。



そのフレーズを目にした私は
熱い夏のさなか、ルームクーラーでキンキンに冷えた部屋の中で
マタ~リと読むというのが、SF小説を読むのに最適なスタイルであり
空想への扉を開いて、その中へ踏み込んでいくための
必要な儀式であるように感じました。
そして何やらワクワクするような思いに捉われたのでございます。



今思えば、読者の購買意欲をくすぐる巧みなフレーズでございまして
まんまと釣られた私は、さっそく何冊かSF小説を購入いたしました。
ちなみにその頃の私が読んでいたSF小説というと
主に外国の作家の作品が多かったのですが
ハインラインとかブラッドベリとかディックとかいった
割とポピュラーな作家ではなく
アンドレ・ノートン、マイケル・ムアコック、C・L・ムーアといった
SF小説の読者以外には、あまり馴染みのないような作家の作品を
読んでいたのでございます。



私はそれらの作家の作品の何冊かを
前述のようなルームクーラーをキンキンに効かせた自室で読み始め
空想への扉を開けて、その向こう側の住人となりましたが
部屋が冷えすぎたせいか読み終わった後に
頭痛をもよおしたり腹を下したりすることが頻発いたしました。
どうやら私には、そのようなハイソな読書の仕方は
似合わなかったようでございます。



すっかり体調を崩してしまったために、その年の夏休みは台無しになり
私は、もう二度とあのような読書の仕方はするまいと心に決めました。
またその頃から、ミステリーの方に関心が高まっていき
SF小説とはだんだん距離を置くようになりまして
やがて一部の日本の作家の作品以外、SF小説は読まなくなってしまいました。



今、仮にSF小説を読めと言われても、読む気にはなれません。
リアルの生活に追いまくられているせいか
空想への扉を開くことができないのでございます。
SM小説なら読むことはもちろん、書くことすら吝かではないのですが.....






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