トゲの行方




お目汚し、失礼いたします。



私が子供の頃、夏休みに父親の実家へ遊びに行くと
祖父母が買ってくれていたのか
少年向けの漫画雑誌が1冊か2冊、必ず置いてありました。
ある年の夏、その漫画雑誌の中に一編の読み切り漫画が載っておりまして
その漫画の中で登場人物の青年がこう申していたのでございます。



「 あのとき、ほんの少し、ほんの少しだけ勇気を出していれば
 こんなことにはならなかったんだ..... 」



その青年は少し足が不自由でございまして
常に片足を引きずるようにして歩いておりました。
そんな彼が、足に大ケガをした車椅子の少年を元気付けるために
色々と尽力するのでございます。



リハビリの甲斐あって
少年はもうとっくに歩けるようになっていたのですが
怖くてなかなか車椅子から立ち上がることができません。
「 アルプスの少女ハイジ 」のクララのような状態でございました。
ところがあるとき、青年の足が義足だということがわかり
驚く少年に青年は告白するのでございます。



「 君ぐらいの年齢のとき、足にトゲが刺さったんだ。
 針を使ってトゲを取ることになったんだが
 僕は怖くてそれができなかった。
 そのまま放っておいたら、やがてトゲの刺さったところが化膿して
 ついには足を切り落とさなければならなくなった..... 」

「 あのとき、ほんの少し、ほんの少しだけ勇気を出していれば
 こんなことにはならなかったんだ..... 」



車椅子の少年は感極まって自分でも気づかないまま立ち上がり
青年のところへ駆け寄る.....物語はそこでハッピーエンドと相成ります。



刺さったトゲを放っておいたら、足を切断しなければならなくなった。
実際にそんなことがあるのかどうか、私は医者ではないのでわかりませんが
私の少年時代には、そのようなことを親や大人から言い聞かされておりました。
今思えば都市伝説のようなものだったと思うのですが
当時は私、それを信じ込んでおりました。



人一倍臆病だった私は、そういう事態になるのはもちろんですが
指先や足に刺さったトゲを、針を使って取り出すというのが
怖くて仕方ありませんでした。
そのため、トゲが刺さらないよう常に気をつけておりましたが
それでもトゲが刺さってしまうことがございます。



たいていは針でちょっと皮膚をほじくる程度でトゲは抜けたのですが
あるときかなり深いところまでトゲが入り込み
針をいつもより深く刺し込んでトゲを取る必要に迫られたことがございました。



しかしそんな恐ろしいことなど到底できず
私はそのトゲのことを親にも言わずに放置しておりました。
しばらくの間、そのトゲのことが気にかかって仕方ありませんでしたが
やがてすっかり忘れてしまい
どこにそのトゲが刺さっていたかも分からなくなってしまいました。



そしてそれからもうすでに40年以上もの歳月が流れております。
あの漫画の青年のセリフ、親や大人が話していたトゲの話は嘘だったか
もしくは極端なケースだったのでございましょう。



ところで、トゲと同様に、針についても怖い話がございました。
針が刺さって人間の体内に入ると、めぐりめぐって心臓に到達し
心臓を傷付けて死に至ることがある、と。



ひょっとするとあのとき放置していたトゲは
いつのまにか私の体の奥深くまで潜り込み
どこかまったく別の部位に到達しているのではないでしょうか。
まぁ針ではございませんので、心臓を傷つけるということは無いでしょうが
めぐりめぐって脳に到達してしまった可能性がございます。



私の妄想癖は、そのトゲのせいかもしれません.....






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