素朴な闇




お目汚し、失礼いたします。



以前、とある地方の観光地へ旅行に行ったときのことでございます。
昼過ぎに、その観光地の駅前の商店街をブラブラと歩いておりましたら
いつの間にやら飲み屋街の方に迷い込んでしまいました。
もっとも地方の小都市ゆえ、繁華街というようなケバケバしいものは無く
一目見ただけでは飲み屋街とはわからないという、のんびりとした有様でございました。
大都市で見かけるような「 風俗店 」と呼ばれるようなものはまったく見かけず
しかも時刻が昼過ぎだったせいかもしれませんが、実に素朴な感じがいたしました。



飲み屋街のど真ん中に神社や石畳があったりして、何やら微笑ましかったのでございますが
やたらと道が入り組んでいて、ややもするとさっき歩いた道をまた歩いていたり
表通りの方へ行くつもりがどんどん裏通りの奥のほうへ進んでいたりと
あたかも迷路のようでございます。そんな迷い道を歩いているうちに
このままここから出られなくなるのではないかと何やら不安になってまいりました。
裏通りの奥まったところでは、ほとんどのお店がまだ営業していないため
人通りもまったく無く、道案内を請うことができません。
結局ウロウロ歩き回っているうちに表通りに出ることができたのですが
正直なところ少々うろたえてしまいました。



もし夜になり、この裏通りが活気付いている時にここで道に迷ったらどうしよう。
そんなことが頭に浮かびました。初めて訪れた旅先の飲み屋街の裏通りで
夜、道に迷った時の心細さは、それはもう大変なものではないかと存じます。
昼間と違って人通りは多いゆえ道案内を請うことはできましょうが
場合によっては、地理不案内な観光客だと足元を見られ
奇妙な方言でまくし立てるボッタクリバーの客引きによって店内へ引きずり込まれたり
呂律の回らない舌で地方訛りの罵声を吐き出す酔客にからまれたり、ということもありましょう。
カツアゲの被害者になる、盗賊の群れに襲われる、辻斬りに遭うということも考えられましょう。



もちろん、明るい午後の陽射しに照らされた素朴な街並みは
そういった暗い一面など微塵も感じられない穏やかなものでございましたし
地元の人々は古き良き時代の純朴さを持ち合わせております。
しかし私の拭い難い人間不信が招いた感覚なのでしょうか
なぜかその街並みに夜の闇の深さを垣間見たような気がした次第でございます.....






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