蒸発都市の空耳 【 2/2 】




お目汚し、失礼いたします。



前回の記事の続きでございます。
神戸三田プレミアム・アウトレットの中をそぞろ歩きしておった私
ヴァレンティノの店舗があるあたりから不思議な声が聞こえてくることに気づきました。
そのあたりは噴水のあるちょっとした広場になっておりまして
よく見るとそこにいた2歳ぐらいの男の子が
「 ヤッホー!」と声を出す時のように口の前で両手を構え

 リヨン・ボール~!

と声を張り上げているのでございます。



男の子はよっぽど楽しいのか、近くにいた人々に向かって呼びかけるように
「 リヨン・ボール 」という言葉を何度も繰り返し叫んでおりました。
「 リヨン・ボール 」というのが何なのか
ポケットモンスターの必殺技なのか、妖怪ウォッチのキャラ名なのか
テレビゲームに出てくる呪文なのか、それとも何の意味も無い片言の言葉なのか
判然とはいたしませんでしたが、なんとも微笑ましい光景でございます。



やがて坊やは叫び疲れたのか飽きたのか声を出すのをやめ
親御さんといっしょに人込みの中に消えて行きました。
幼い子供が言葉を喋り始めたころに発する奇妙な言語は実に可愛いものでございます。
子供本人も言葉を喋ることの楽しさを感じて嬉しいでしょうから
親子ともどもこの上ない幸せを感じる時期といえましょう。



人前で無邪気に大声を出せるその坊やが、うらやましゅうございました。
私もこのような物心のつかない年頃の子供だったときは
人前で何か意味不明な言葉を大声で叫んで楽しんでいたに違いありませんが
今では分別や社会常識が邪魔をして、そのようなことは望むべくもございません。
仮に叫ぶとしたら、何か極度のストレスに耐えかねた挙句
「 ゴールデン・ボール~!」と叫ぶのが関の山でございます。



それから小一時間ほど、街の中をぶらついた私は帰ることにいたしまして
来客用の駐車場へ向かい、車に乗りました。
そして駐車場を出てしばらくするとすぐ近くにAEONのショッピングセンターを見かけまして
そういえばイオンモールがここにあったんだと思い出し
そのときになってようやく、坊やが叫んでいた言葉が「 リヨン・ボール 」ではなく
「 イオンモール 」だったのかもしれないと気づいたのでございます。
あの坊や、親御さんか誰かが「 イオンモール 」と大声を出していたのを真似たものの
幼さゆえ正確に発音できず、「 リヨンボール 」と言ってしまったのでございましょう。



いや、むしろあの坊やはちゃんと「 イオンモール 」と言っていたのに
老いぼれてガタの来た私の耳には「 リヨンボール 」と聞こえたのかもしれません。
フロンドガラスの向こうに広がっているもう一つの蒸発都市を見て苦笑をこぼしつつ
微笑ましい叫び声で私を癒してくれたあの坊やに、幸あれと祈った次第でございます.....


                                        プロフィール画像2015圧縮前→fg→圧縮→jpg→FC2画像圧縮20150929

コメント

非公開コメント