微妙な覚悟




お目汚し、失礼いたします。



もう四半世紀ほど前のことでございまして
私が20代後半の頃だったかと存じます。
ある日、同僚や上司と一緒に会社の外で昼食を取ることになり
某ファミリーレストランに参ったのでございますが
そこに若くて可愛いウエイトレスの女の子がいたのでございます。



身長は155㌢ぐらい、プロポーションは可もなく不可もなくでしたが
ワンレンのロングヘアーとちょっと掠れ気味の細い声が
色っぽい女の子でございました。
そして彼女をさらに色っぽく見せているのが上を向いた鼻でございまして
それが顔を常に仰け反らせているように見え
妙なエロさを感じさせてくれるのでございます。



私たちのテーブルにオーダーを取りに来た彼女をひとめ見て
私はゾッコンとなってしまいました。
彼女の顔が、以前片思いだった女性にどこか似ていたのも
影響していたようでございます。
そして食事を終えてそのファミレスを出てからも彼女のことが忘れられず
思い切って声をかけてみようか、すなわちフォーマルな表現で申すなら
ナンパしてみようかと思ったのでございます。
しかしそういった方面に関してはまったく奥手で不器用だった私
さすがに身の程知らずだという自覚はございまして
どんな風に誘いかければいいのか、断られたらどうしょうかなど
「 飛ぶ前に見よ 」状態が何日も続いておりました。



やがて熟考と逡巡に疲れ果てた私は
とにかく彼女がオーダーを取りに来たときに
何でもいいから声をかけてみようと意を決し
休日にそのファミリーレストランに通いつめることにいたしました。
そして彼女が出勤していなかったり
出勤していても私のところにオーダーを訊きに来る機会が無かったり
ということを何回か繰り返した挙句、ようやくチャンスが巡ってまいりました。
ある日曜日、そのファミレスを訪れた私は
入り口のレジの近くに彼女が立っているのを見かけたのでございます。
彼女は、あの掠れ気味の可愛い声で
「 いらっしゃいませ、お一人様ですか 」と尋ね
私がうなづくと「 御案内いたします 」と私を店内に導きました。



朝の11時ごろで店内に客は少なく
ドキドキしながら窓際の席に腰を下ろした私は
テーブルの上のメニューにひとしきり目を通すふりをして息を整えながら
まず先にオーダーをしようと思い、「 ハンバーグランチ 」と言うために
傍らに立っている彼女の方を見上げました。



そのとき私の目に真っ先に飛び込んできたのは
彼女のあの上を向いた鼻の穴でございました。
そしてその縦長の二つの穴のうち左の方の鼻孔に
しっかりと鎮座まします白くて大きな鼻糞が見えたのでございます。
次の瞬間、思わずうつむいた私が呟くように「 ハンバーグランチ 」と申しますと
彼女は私の注文を復唱し、立ち去って行きました。



私の胸はときめきながらも、何とも言えない複雑な戸惑いを感じておりました。
可愛くて魅力的な彼女の鼻の穴に鼻糞が居座っていた。
そんな彼女に今から自分は交際を申し込もうとしている。
鼻糞なんて大したことじゃない。アバタもエクボとか言うではないか。
では鼻糞は何だ? 鼻糞は鼻糞だ。
しかし、もし仮に彼女と結婚することになれば夫婦だろ? 鼻糞が何だというんだ。
愛さえあれば鼻糞なんて、それこそ鼻糞みたいに些細なことじゃないか。
いっそ食べちまえ。鼻糞の一つや二つ、食えなくてどうする。
でも、鼻糞だろ? 鼻糞なんだろ?……



私の内面の葛藤はますますハゲしくなり
葛藤はヒステリックなフラストレーションを招きよせることになってしまいましたが
やがて彼女が料理を手にして再び私の席にやってきた時
私は思わず彼女の鼻の穴を見上げてしまいました。
すると、何とそこにはさっきの無粋な鼻糞は影も形もなくなっていたのでございます。
彼女自身が気付いて取り除いたのか
それとも上司か同僚に指摘されたのでございましょう。



しかしそのときには私の葛藤は、すでに葛藤ではなく怒りに変わっておりました。
まるで私を拒むかのように、鼻糞を私に見せた彼女本人に対する怒りや
店員の身だしなみに関する指導が行き届いていない店に対する怒りでございます。
彼女をナンパするという目論見などどこへやら
私は無言でハンバーグランチを受け取ると、黙々と食べ始めました。
もしかすると彼女の鼻糞がこのハンバーグランチの中に落ちたのかもしれない
という疑惑が頭を掠めましたが、食べないとモッタイナイという思いがあり
強引に腹の中に詰め込みました。



そのファミレスを出て帰宅してから冷静になって考えたのですが
些細なことで立腹してしまい、ちょっとオトナげなかったかなと反省はしたものの
彼女の鼻糞を食べる覚悟があるかと自問自答してみたら
やはり一抹の迷いがございました。その日、一晩悩みましたが
結局私には彼女の鼻糞を食べることはできないということを自覚し
ナンパはあきらめることにした次第。



世の中にはスカトロプレイなるものがあるということを
当時の私はすでに存じておりました。
とはいえ、その頃は私もまだ若く、世の中の酸いも甘いも噛み分けることができずに
鼻糞程度でうろたえてしまったわけでございますが
今なら同じシチュエーションにおちいった場合
少なくとも彼女に声をかけるのを躊躇することは無いはずでございます。



もっとも、彼女のウンコを嬉々としてパクつくだけの覚悟ができるかと言われると
それは微妙でございますが.....






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