テクニック




お目汚し、失礼いたします。



先週の日曜の午後でございました。
隣町に用事があって出かけたのでございますが
その途中、住宅地にある小さな公園をたまたま通りがかったところ
柴犬を連れて散歩されている御夫妻らしきかたをお見かけいたしました。



仲むつまじい熟年夫婦の風情を漂わせ
にこやかに会話を交わしながら散策を楽しんでおられます。
奥様はごく普通の主婦といった印象でございましたが
御主人のほうはオシャレなブルゾンとジーパンを身にまとい
なかなかダンディなかたでございました。
若いころはさぞかし女性にモテたことでございましょう。



お二人とも面識のあるかたではございませんでしたが
その仲の良さに何やら癒しのようなものを感じ
しばし立ち止まって御夫妻と柴犬を何気なく拝見しておりましたところ
やがて思いもかけないことが起きました。
犬を連れていた奥様の方がうっかりしてリードを手放したため
柴犬は脱兎のごとく走り出し
公園の隅の草むらの方まで行ってしまったのでございます。
御夫妻は驚きはしたものの、さほど慌てた様子も無く
やがて奥様がのんびりと草むらのところにいる柴犬の方へ歩いていきました。



正直、ずいぶんノンキだなと思いました。
私は少年時代に小鳥を飼っておりましたが
遊び相手になってやろうとその小鳥を鳥籠から出してやったとき
部屋の窓が開いていることをすっかり忘れておりまして
そのまま窓から逃げていってしまったことがあったのでございます。
柴犬は小鳥のように空を飛んで逃げることはできますまいが
なかなか動きがすばしこいものでございまして
よほどこちらがすばやく動かなければ捕まえることなど無理でしょう。
そして赤いチャンチャンコを着ていてももおかしくないような老夫妻に
とてもNBAの選手のような敏捷な動きは望めそうにありません。



奥様は飼い犬の名を呼びながら
草むらのそばで地面のにおいを嗅いでいる柴犬に近寄っていきました。
犬は奥様が近づくとそちらの方を向き、猫のように背を丸めて身構えました。
瞬時に犬が走り出し、その場に取り残される奥様の姿を想像していたのですが
奥様は地面に横たわっている長いリードの端をヒョイと踏み付け
そのままリードを握って引っ張り、柴犬を自分の方に手繰り寄せました。
そして御夫妻も柴犬も、何事も無かったかのように散歩を続けたのでございます。



お見事、というよりほかはありませんでした。
犬を飼っている人間には、そのぐらいのテクニックは
あたりまえだったのかもしれませんが
ペットを飼っていない私には実に新鮮な驚きでございました。
談笑しながらそぞろ歩きをされる老夫妻と
ヒョイとリードを踏み付けたときの奥様の足の動きとの対比がおもしろく
思わず私は微笑んでしまいました。



きっと御主人のことも、そんな風に手なづけていらっしゃるのでございましょう。
ツボの押さえどころをちゃんと心得ていて
何があってもリードをヒョイと踏ん付けるように
亭主のチンポ、おっと失礼、尻尾をギュッと踏み付けて動きを封じてしまう。
亭主を飼っている御婦人方には、そのぐらいのテクニックは
あたりまえなのかもしれません.....






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