仙人の夢




お目汚し、失礼いたします。



前回の記事の続きでございます。
ほんの軽い気持ちでハイキングコースを外れて山の中を歩いているうちに道に迷った私は
焦燥と恐怖に責め苛まれ、パニック状態に陥ってしまいました。



山の底のような窪地に迷い込み、私は立ちつくしておりました。
携帯電話は持っていたものの、当時私が使っていたのは今どきのスマホではなく
典型的なガラケーでしたのでGPS機能など付いてはおりませんし
山の中ゆえ電波状況が悪く、警察に救助要請の連絡を取ることもできません。
また、仮にどこか電波状況の良いところで連絡が取れたとしても
警察が出動すれば大騒ぎとなりましょう。そう思うと二の足を踏んでしまいます。



しかしグズグズしていると日が暮れて身動きが取れなくなり
ここで夜を明かさなければならなくなります。
私は頭を抱え込んでしまいました。何とかならないか、どうすればいいか
とにかく落ち着いて考えるんだ、落ち着け、落ち着け、と自分に何度も言い聞かせるうちに私は
この山の中から脱出するためのスベよりも
落ち着くためにはどうすればよいかという方法について考え始めました。



そして私は、周囲に誰もいないことを逆手にとって
自家発電をやってみてはどうかと思いついたのでございます。
とにかく落ち着くのが先決だと藁をもつかむ、いや、マラをもつかむ思いで
私は自家発電を開始しました。
切羽詰った深刻な状況がそうさせたのか、発電所は一気にフル稼働
私はあっけないほど早くイってしまいました。



すると、これはいったいどうしたことでございましょう。
暴走するバイブレーターのようなさっきまでの混乱した精神状態が
静かに水を湛えた井戸のように安定してきたのでございます。
どこかでウグイスの鳴く声が聞こえ
木々の間を通り抜けるそよ風が放つ、緑色の香りさえ感じる余裕が生じてまいりました。
私を取り囲む風景は、もはや私を呑み込んだ山の胎内ではなく
街なかにある公園で見かける小さな森か林のようでございました。



落ち着きを取り戻した私は曖昧な記憶の糸をたどりながら、元に戻る道を慎重に探し始め
それと同時に重複や勘違いが生じないよう
要所要所で携帯電話のカメラ機能を使ってその場その場の風景の写真を撮り
位置を確認するという知恵まで湧いてくるようになっておりました。
幸いなことに天候が悪化することも全くございませんでしたので
結局、夕方頃までかかって私はハイキングコースへ戻ることができました。
助かったと心底ホッとしたのでございますが
さんざん歩き回ったために足腰はガタガタでございました。



もう二度とあんな体験はしたくはありませんが
今思えば、自分があんなにもパニクっていたのは
たぶん、山の中で道に迷い、人里に戻ることができなくなるからというよりも
むしろ私が行方不明になったことで起きる人里での大騒ぎが怖かったからだろう
という気がしてなりません。
何気ない日常に裂け目や割れ目が生じて
自分がそこにいたたまれなくなることが恐ろしかったのでございましょう。
そう思うと、もしあのまま人里に戻ることができなかったら
私はそのまま現実社会との接点を切り、あの山の中で仙人のような生活を始めていたかもしれません。



それにしても野天でおこなった自家発電の気持ち良さは格別でございました。
もし私が仙人となったときは、白い霞を食べて白いスペルマを放つ奇怪な仙人として
あの山にまつわる都市伝説のキャラクターに身を窶すことになりましょう。
そして困ったことに私、そんな自分の姿を夢見ていることがよくある今日この頃なのでございます.....



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