図書館喧騒




お目汚し、失礼いたします。



去年の秋ごろのとある日曜日のことでございます。
ちょいと借りてみたい本がございましたので、近所の図書館へ出向きました。
最近の図書館はどこもそうなのかもしれませんが
CDやビデオの貸し出しもやっておりまして
また備え付けのPCで蔵書を検索することもでき
私どもが学生の頃に利用したときとはだいぶ様子が異なっております。



その日、目当ての本を貸し出してもらった私は
すぐ自宅には戻らずに、ブラブラと図書館の中を見て回っておりました。
そして書架から一冊、鳴海章のミステリーを取り出すと
近くにあった閲覧用のテーブルのところへ行き
椅子に座って頁をめくり始めました。



しばらく読んでいるうちに、私の耳に何やら異音が入り込んでまいりました。
私の座っている席からやや離れた席に
あごひげを生やした40歳前後の男性が腕組みをして腰掛けております。
作業服を着た建築会社の現場監督風のその男性をよく見ると
どうやら目を閉じて居眠りをしている模様。
異音の正体がその男性の寝息だとわかった私は
再び本を読むことに専念いたしました。



ところがでございます。
男性はおとなしく眠っていたものの
その寝息はだんだん荒々しくなってまいりまして
ほどなく「 鼾 」というレベルにまでアップデートしたのでございます。
しかも鼾はその勢いをとどめることなく
音量はどんどんどんどん傍若無人に増えていくばかり。
図書館なるもの、まるっきり音がしない無音空間ではございませんが
「 ガァァァアアア 」とか「 ンゴゴゴゴゴ━━ 」とか「 ピス~~~~~ 」とかいった
鼾のボリュームがウナギノボリに上がっていき
ついには、その鼾だけ突出しているというのが
否めない状況になってしまいました。



閲覧用のテーブルで本を読んでいるかたや
書架の間をゆっくりと行き来している図書館利用者の中には
眉を顰めたり、忍び笑いをしたりという人もいらっしゃいましたが
ほとんどのかたは吼えるように鳴り響く鼾の音をスルーしておりました。
図書館の司書や職員も、起した途端にブン殴られるという
寝込んだ酔っ払いに駅員が声かけをするときのような危険を感じてでしょう
見て見ぬふりでございます。



正直なところ私、「 迷惑なやつだな 」と眉を顰めていた方でございましたが
私の斜め左の席で大活字本を読んでいた、60代ぐらいの大柄な男性も
同じようなことを考えていらっしゃったようで
鼾を発する男性の方を物凄い形相でにらんでおりました。
やがてその様子を見ているうちに私は
某電子掲示板で同じ相手を叩く仲間を見つけたときのような
奇妙なシンパシーを感じはじめたのでございます。
そしてウーハー族のごとき騒音を垂れ流すアゴヒゲ野郎を
私が羽交い絞めにすると、大柄な老人が野郎の胸倉をつかみながら
「 おいっ、おいっ、起きろ。大丈夫か、おまえ 」と頬を叩いて
そいつの目を覚まさせてやるシーンが脳裏をよぎりましたが
私にはそのようなDQNじみたマネはできません。
しばらく妄想を楽しんだ後、黙ってその場を立ち去ることにいたしました。



私がその図書館を出る時、まだ鼾は高らかに鳴り響いておりました。
大活字本を読んでいた老人も相変わらず
鼾を発する男性の方を睨み付けたままでございます。
あの後、両者の間に何らかのバトルが勃発したかどうかは
私には知る由もございません.....






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