クルマ離れ




お目汚し、失礼いたします。



最近の若い衆は、車に乗らないそうでございます。
長引く不況で経済的な負担を避けることが肝要とされている昨今
イニシャルコストもランニングコストも高くつくクルマは
高嶺の花を通り越して敬遠の的となっているのでございましょう。
またクルマ以外に若者の趣味の幅が広がったことや
交通事故を起した場合の責任の重大さ
駐車場の確保の難しさや公共交通機関の充実など
若者のクルマ離れにはネガティブな、あるいはポジティブな要因が
いろいろと作用しているようでございます。



私どもが若い頃は、クルマは一種のステイタスシンボルでございました。
たとえそれが中古の軽自動車であっても、でございます。
私が大学生だったとき、バイト先の同僚で
クルマを持っている男子学生がおりましたが
やはりバイト仲間からは一目置かれているようでございました。
で、そんなある日の昼休み
たまたま私が彼と2人だけで食事に出かけることになり
しかも彼のクルマに乗って行くということで
私たちはバイト先の会社の駐車場へ向かいました。
彼は自分のクルマを使ってバイト先に通っていたのでございます。



クルマは銀色の普通乗用車で、中古か新車か、ちょっと見にはよくわかりません。
そのクルマに乗って私たちは、バイト先から少し離れた場所にある
ファーストフードの店へ行きました。得意げに運転する彼の隣の助手席で
私はさながら腰巾着か幇間のように
しきりにクルマを褒め、彼の運転技術に感心し
それに対して彼も上機嫌でございました。



やがて和やかな雰囲気のままクルマはファーストフード店に到着し
付設の駐車場に停まりました。私はドアを開けて出ようとしたのでございますが
このときウッカリしてドアを大きく開け過ぎてしまい
駐車場のコンクリート塀にドアの端が軽く当たってしまったのでございます。
それを見るやいなや、運転席側にいた彼は「 あ゛━━━!!!」という
唸り声とも悲鳴とも区別のつかない声を上げ
アクション映画の俳優並みの颯爽とした動きでクルマの前を回り込み
ドアのそばにしゃがみ込むと、まるで目玉をこすりつけるかのように顔を近づけ
当たった箇所を凝視しておりました。



さいわいなことに傷は付いていなかったのか
それともほとんど傷と呼べるほどのものではなかったのか
あるいは傷は付いていたものの渋々不問に付したのか
そのあたりはよくわかりませんが、ぶつかった箇所をしばし凝視した後
彼は自分で助手席側のドアを閉めると
無言でファーストフード店の方へ向かいました。
とりあえず私は彼に謝りましたが、ファーストフード店に入ってからも
彼と私の間には実に居心地の悪い空気が立ち込め
まったく口を利かないまま食事を済ませることになってしまったのでございます。
もちろん割り勘でございました。



それ以後、ドアを塀にぶつけた私に対して
彼が弁償を要求するような言葉を口にすることはございませんでした。
と申しますより、彼が私と口を利くこと自体、二度となかったのでございます。
そしてこのときの体験が元となり
私は他人様の車に乗るときは胃が痛くなるほど神経を尖らせるようになり
カーマニアの人間とは距離を置くようになりました。



若者のクルマ離れの原因として「 人間関係が損なわれる 」ということも
当然あってしかるべきではないかと存じます.....






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