Uターン禁止





若い御婦人でございました。



原付に乗ったその御婦人が信号待ちで停止すると
すぐ後ろにダンプが停まりました。
運転手のオッサンが運転席側の窓から首を出して
彼女に何やらネチネチとイチャモンを付け始めます。
交通事故というほどではないにせよ
事前に若干のトラブルが有ったようでございます。



いくぶん動じてはいたものの、その御婦人は
きつい目でダンプの運転手の方をにらみつけるとプイッと前を向き直り
信号が青になるとそのまま原付で走り去って行きました。
ヘルメットのすそから伸びている茶色く染めた長い髪が
風になびいておりました。



気の強そうな御婦人でございました。



ダンプの運転手は、それ以上彼女に絡もうとはしませんで
彼女が去ったのとは別方向にハンドルを切り、走り去っていきました。



たまたま仕事中に車を運転していた私は
交差点の反対側に停まった自分の車の中から一部始終を見ておりまして
何らかのヤバイ事態を想定して警察へ通報することも考えておりましたが
幸いそのような展開にはならず、ホッといたしました.....






お目汚し、失礼いたします。



それは昼下がりの交差点での、ちょっとした事件でございました。
ただし、今から20年ほど前のことでございます。
そんな昔の記憶が甦ったのは一昨日の昼過ぎ
仕事中に車を運転していて、他でもない、あの気の強そうな御婦人を
偶然にも同じ交差点で見かけたからでございます。
彼女は私と斜向かいになるような形で、交差点の向こう側
原付に乗って信号待ちをしておりました。



20年も昔の出来事や、その当事者である御婦人の顔を
われながらよく覚えていたものだと感心いたしました。
20年という時の流れが、彼女をオバサンに変えておりましたが
ヘルメットの下の鋭い両目、肉付きの良い頬や頑丈そうな鷲鼻
そして茶色く染めた長い髪に間違いはございません。
ダンプの運転手ともめていたあのときと同じ場所で
大きく股を広げて原付にまたがっている彼女の勇姿に
何やら感動してしまいました。



思わず車から降りて彼女に近寄り
「 あの時は大変でしたね。さぞ怖かったでしょう 」と声をかけたくなりましたが
女性が怖い思いをしていたのに何も行動を起こそうとせず
傍観者のままでいた私など、彼女にとっては軽蔑の対象でしかないでしょう。

「 うるさいんだよ、この弱虫野郎!
 何が『 大変でしたね 』だ! あっちへ行きな!」

と罵られるのがオチでございます。



あるいは

「 あたしゃ弱いやつが大嫌いでねぇ。
 今からあんたを轢き殺してやるよ、覚悟おし!
 そ~~れ、ブルン、ブルン、ブル━━━━ン!」

とばかりに 原付に乗ったまま襲い掛かってくるかもしれません。
逃げる私に追う彼女。 しかしやがて追いつかれ、撥ね飛ばされ、
仰向けに倒れた私の股間を彼女の原付の太いタイヤが轢いて行くでしょう。



私の脳味噌がそんな妄想にドップリ浸かっていることなど露知らず
かの御婦人は原付を駆って走り去っていきました。
ふと私は車をUターンさせて、彼女の後を追いかけてみたくなりましたが
その交差点はUターン禁止。そして私は50過ぎのいい大人。
そのまま仕事先へ向かった次第でございます.....






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