甘く危険な香り




お目汚し、失礼いたします。



私が社会人になってから二年目のことでございます。
当時勤めていた会社の営業部に、とある女子社員がおりました。
私より一年先輩で所謂「 クールビューティー 」と申しましょうか
仕事はよくできる上に容姿端麗、まさに才色兼備という女性でございました。



ところが、それだけスキの無い女性だったにもかかわらず
ただ一つ、難点と申しましょうか「 腋臭 」がスゴイのでございます。
私は別の部署で働いておりましたゆえ、しょっちゅう顔を合わせるわけではないのですが
たまに用事で話をしたり社内ですれ違ったりすると
味噌が腐ってそのまま乾燥してしまったような猛烈なニオイが私の鼻をつくのでございます。



こんなにカッコイイ女性なのに、なぜ腋臭がひどいのだろう。
本人は気づいているのだろうか。
回りの人間は何も言わないのだろうか。
ひょっとして私の幻臭か錯覚なのだろうか。
しかし彼女の近くにいると、むさ苦しいオッサンのようなニオイが
確かに漂ってくるのでございます。



そんなある日、ちょっとしたトラブルが私の部署と彼女の部署との間で起こりました。
原因は彼女の部署内部における連絡不行き届きだったようで
こじれることも無くじきに解決した些細なトラブルだったのですが
その件に関する担当者は誰あろう、この私と「 クールビューティー 」の彼女でございました。



たいしたトラブルでもなかったので私の方はそれっきり忘れておりましたが
数日後、社内で彼女と顔を合わせた際
彼女の方から「 先日はすみませんでした 」と話しかけてきて
私の方も「 いえいえ、どういたしまして 」と返答し
それで万事普段どおりの日常に戻るはずでございました。
ところがちょうどその時、彼女の直接の上司にあたる係長の男性が
そばを通りかかったのでございます。



私に謝っているクールビューティーの姿を見たその係長は
彼女が謝り終えると、此度のトラブルの詳細を私に向かって説明いたしました。
曰く、彼女にその係長が与えた指示があとで変更となり
そのことを係長が彼女に伝えていなかったため
私の部署との間に事務処理上の齟齬が生じたとのこと。



私は了解したことを申し上げ
事情説明をしてくれたことに対する礼をその係長に述べると、その場を立ち去りました。
そのときも彼女の体からは例の腋臭が立ち昇っておりましたが
同時に私の頭にはイヤラシイ想像が立ち昇っておりました。



彼女の腋臭の原因は、あの係長ではないのか?
二人の間には肉体関係があり
汗や垢、体液などを通してあの係長の腋臭が彼女の体に「 伝染った 」のではないか?
彼女を庇い立てするかのように
自分のミスを曝け出して事情説明をしたあの係長の姿に
何やら不自然なものを感じて、さような疑いを抱いた私でしたが
すぐにそれはありえないと否定いたしました。



彼女のような「 クールビューティー 」が情事の後に入浴もせず出勤するとは思えません。
それにあの係長の体からは例の腋臭はこれっぽっちも臭わなかったのでございます。
しかしわざわざヒラ社員の私を前にして、ああまでして彼女を守るような態度を取るのは
何かあるはずでございます。



ところが、その係長、それ以降も社内で私と会うたびに
先のトラブルで迷惑をかけたことを詫びてまいるようになりました。
もうすでに片付いた話であり、こちらとしても何のわだかまりも無い一件だというのに
何度も何度も詫びてくるのでございます。そして

「 許してくれ 」
「 本当にすまなかった 」
「 すべては俺のミスが原因だ 」
「 君が望むならどんな仕打ちも甘んじて受けよう 」
「 悪いのは彼女じゃない。責めるなら俺を存分に責めてくれ 」

と再三にわたって聞かされるにおよび、私が何かあるはずだと思っていたその「 何か 」とは
私が想像していたものとはかなり毛色の違ったものではないかという気がしてまいりまして
何やら危険なニオイを感じ取った私は以後、できるだけその係長を避けるようにいたしました。



今思うに、それが自分の部下に対するその係長なりの気遣いだったのかもしれませんが
しかし当時の私には、その係長にはある種の特殊な性癖があって
私に対してその性癖を満たして欲しいとせがんでいるように感じられました。
そしてこれ以上深入りするのはアブないと自分に言い聞かせたのでございます。



そういうわけで私がその係長の身体に蚯蚓腫れを作ったり
ボールギャグを噛ませたりするような関係に陥ることは回避できました。
しかし結局、クールビューティーの腋臭の正体は摑めずじまいとなり
今ではあの奇怪な腋臭のニオイよりも
係長のくどいまでの謝罪の声が耳に残るようになってしまった次第でございます.....






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